エレガントな、ちょっといい話


先日、高校の入学試験に見事成功した次男を引き連れて、近所のauショップにノコノコ行って来たんじゃよ。
ついでと言ってはなんなんじゃが、儂の携帯電話も機種変更をしようと思ってな、大いに張り切って行って来たんじゃ。
次男はどんな携帯電話がいいか、すでにカタログを見て決めておったんじゃが、儂はそんなせこい事前工作は、断じていたしませんぞ!!!!
大人の男は、いつだって出たトコ勝負じゃ!!!!!!!
事前にどんな機種にしようか決めるだなんて、………そんな姑息なマネは大っ嫌いじゃ。
大人の男は、い・つ・だ・って出たトコ勝負じゃ!!!!!!!
でも、今にして思えば…………。



…………………………………。
…………………………………。



おっと、思わず頭(こうべ)を垂れてしまいましたじゃ。


と、とにかく…………、大いに張り切ってauショップに行って来たんじゃ。



儂らが新機種のコーナーを物色しておったら、マスクをした女店員が微笑みながら、
「お決まりですか?」
と言い寄って来たんじゃ。
目が笑っておらんかったんじゃが、たぶん口元は微笑んでおったんじゃろう。
客が来て怒る店員なんて、まずおらんからな。

すでに事前工作しておった次男は、欲しい機種をそそくさと伝え、儂より先に契約じゃ。
受付カウンターに誘(いざな)われた次男、………つい昨日まで子どもだと思っておったのに、まるで突然おとなになったかのように、マスクをした女店員と見事対等に渡り合っておったよ。
負けるな、次男!!、がんばれ、次男!!…………。
儂は心でそう呟きながら、がんばって変更する機種を選んでおった。

フルサポートで契約しろと女房に言われておったので、二年間飽きの来ないデザインにしないといけない。
ワンセグも必要ないと思っておったんじゃが、もしかしたら二年後、必要になるかも知れない。
ボタンのレイアウトも使いやすいものでないとな。
あまり華奢な機種だと、二年間のうちにボッ壊れるかも知れんから、ちーと頑丈なものにしないと。

う〜ん、どうしたらいいんじゃ。
う〜ん、どうしたらいいんじゃ。
う〜ん、どうしたらいいんじゃ。

儂の頭(あたま)は必要以上にフル回転じゃ。そのうちポーッとしてきた。
嗚呼、早く決めないと。
あのマスクをした女店員が「これなんかいかがですか? 一応ジュニアケータイですけど、オヤジさんにピッタリですよ」って言い寄って来られたら、「これでいいですじゃ」って言ってしまいそうじゃ。

あ〜ん、どうしたらいいんじゃ。
あ〜ん、どうしたらいいんじゃ。
あ〜ん、どうしたらいいんじゃ。

思わず儂は、店の中央のテーブルの上の真ん中あたりの一段高いところに誇らしげにディスプレイされていた一台の携帯電話に目をやった。
きっとこれはこの店の「おすすめ商品」に違いない。
勝手にそう思った儂は、飾ってあるレプリカを手にとって、思わず一目惚れじゃ。
まるで女性のような端正なデザイン。
儂のパートナーにピッタシじゃ。
「二年間、よろしく頼みましたぞ!!!!」
思わず儂はその携帯電話と契りを交わしたような気分じゃった。



ちーと長い文章になってしまって申し訳ござらん。
もう少しでフィナーレじゃ。あんたも立派な大人なら、ボケ老人の思い出話だと思って、もうちょっと辛抱して読んでくだされ!!



そして儂は、一目惚れをした携帯電話のレプリカを握りしめて、次男と会話を楽しんでおるマスクをした女店員の前に付きだしたんじゃ。
「こ、こ、こ、これにしますじゃ」
儂の力強い宣言に圧倒されたマスクをした女店員は、
「もうじきお子さまとの契約が終わりますので、少々お待ちください
っ」
と、微笑みながら、語尾を強めて、窘めてくれた。
目が笑っておらんかったんじゃが、たぶん口元は微笑んでおったんじゃろう。
客に対して怒る店員なんて、まずおらんからな。
儂は素直に、
「はい!!!!」
って大きな声で返事をして、次男の隣りの椅子に行儀よく腰掛けたよ。こんなに爽やかな返事は、何年ぶりじゃろう。いや、何百年ぶりかも知れんぞ。



(中略)



そして一時間後、儂の機種変更の手続きは滞りなく終わった。

新しいパートナーを手にした儂は、意気揚々………いや、
威風堂々じゃ。
甲斐性のある男にふさわしい携帯電話じゃ。
儂はauショップを出る前に、一応記念として新しいパートナーのパンフレットをもらって行くことにした。
そのパンフレットを見て、思わずビックリギョーテンじゃ。

儂が二年間を伴にする携帯電話は……………、



「ケータイは、エレガントに進化した」
がキャッチフレーズの、明らかに「女性向き」を意識した携帯電話だったんじゃよ。
フルーツを頭にデコレーションしているエレガントな女が持ってこそふさわしい携帯電話を、この儂も持ってしまったということじゃな。(ちなみに儂が選んだ色は、右側のアクアブルー)
いい意味で、エレガントな女とお揃いということじゃ。

…………………………。
…………………………。
…………………………。
…………………………。

でも、よーく考えたら、儂は根本的に勘違いしておったよ。
携帯電話はパートナーではなく、アイデンティティじゃった。
ポーッとした儂は、アイデンティティではなくパートナーを選んでおったわけじゃ。
いやはや、ホント、儂らしい、とっても微笑ましいアクシデントじゃ。

でもでも、ものは考えようじゃ。
携帯電話をいじっている間、フルーツを頭にデコレーションしているエレガントな女をいじっておると思えばいいんじゃ。
そうじゃそうじゃ、そう思えばいいんじゃ。

でもでもでもね、待ち受け画面で用意されている壁紙とかイルミネーションとかがね、女の子向きでとってもかわいいの。
うふ、儂もちょっぴり乙女チックよん。って、トホホじゃよ、まったく。

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